なぜITコンサルタントの仕事内容はコンサルティングではないのか
まずコンサル風に結論から言わせてもらおう。ITコンサルはコンサルではない。この記事ではITコンサルタントがコンサルタントではない理由を説明したい。
- コンサルタントとは何なのか
- ITコンサルがコンサルでない理由
- そもそもITコンサルタントの仕事は何か
- ITコンサルタントのスキルは全て中途半端
- 私の就活は、ITコンサルから始まった
- このブログを立ち上げたきっかけ
コンサルタントとは何なのか
ITコンサルタントがコンサルタントでないという話をする前に、コンサルタントを定義しよう。この定義に当てはまればITコンサルタントはコンサルタントだし、当てはまらなければITコンサルタントはコンサルタントではないのだから明快だ。
さて、そもそもコンサルタントとは何なのか。信用できないソースとして有名なWikipediaで調べてみよう。
コンサルタントとは、コンサルティングを行うことを業としている個人もしくは法人のこと。
Wikipedia「コンサルタント」 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%82%B5%E3%83%AB%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%83%88
コンサルタントとはコンサルティングをやることの人らしい。まるで広辞苑のような書き方だ。これでは何もわからない。
「コンサルティング」にリンクが張ってあるからジャンプしてみようか。
コンサルティング (consulting) とは、企業(まれに行政など公共機関)などのクライアントに解決策を示してその発展を助ける業務を行うことである。
Wikipedia「コンサルティング」 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%82%B5%E3%83%AB%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%82%B0
Wikipediaがいうには、コンサルタントとは、クライアントの発展のための解決策を示してその発展を助ける業務を行う人のことらしい。
これが落とし穴だ。
ウォーターサーバーの営業マンが「弊社のウォーターサーバーを導入すると、従業員ののどの渇きという課題が解決されて、御社の発展につながります」と言って営業をしていたら、この営業マンはコンサルタントになってしまうのだ。
ほかの例でもよい。
「弊社の空気空気清浄機を導入していただくと、従業員が気持ちよく仕事をすることができるので御社の発展につながります。」
「弊社のホームページ作成代行サービスを利用していただくと、ホームページがより美しくなるので、御社の発展につながります。」
この営業すらコンサルタントなのだ。
いうなれば、世の中の営業マンはすべてコンサルタントということになる。保険の営業だろうが宗教勧誘だろうが、インターネット回線の営業も生協の営業もすべてコンサルタントである。
じゃあ全員コンサルタントと呼ぶのかというとそうじゃない。
老人に投資信託を売ってる銀行の窓口が「我々は投資信託コンサルタントです」などと言い出した日には、投資信託で損をした老人たちが黙っていないだろう。(まあ、損をしても黙っているような老人だから銀行で投資信託を売り込まれるのだが。)
だから、コンサルタントにはもう少し狭い定義が必要だ。Wikipediaの定義はやはり信用できないのだ。
世間がイメージしているコンサルタントとは、クライアントの経営陣とのディスカッションを繰り返して、キレのよい分析や解決策を提供する職業に違いないだろう。
このサイトでも世間のイメージに合わせてこう定義したい。「コンサルタントとは、顧客の解決のために自らの頭脳を使って問題解決のアイディアそのものを提供する職業である」と。
コンサルタントが提供するのは問題解決のアイディア(思い付きという意味ではない。戦略といってもいい。)そのものだ。適当な理由をつけて自社製品を解決策だと言って売り込む営業マンはコンサルタントではなく営業マンだろう。
自らの頭脳を使うという点も重要だ。他人のアイディアを売り込むのはコンサルタントじゃない。そんなやつはただの伝書鳩だ。
代表的なコンサルティングファームであるマッキンゼーアンドカンパニーやボストンコンサルティンググループ(BCG)はこの定義でもれっきとしたコンサルティングファームだ。知名度は多少劣るが、ベインアンドカンパニーやATカーニーも無論コンサルティングファームであるといえる。
ITコンサルがコンサルでない理由
さて、ITコンサルタントがコンサルタントでない理由を述べよう。
ウォーターサーバーの営業マンをコンサルタントの呼ばないようにするために、コンサルタントを「顧客の解決のために自らの頭脳を使って問題解決のアイディアそのものを提供する職業」と定義した。この定義は世間がイメージするコンサルタントそのものであり、ITコンサルタントをコンサルタントではないというためにわざわざ作ったものではない。いまサイトを読んでいる方は定義が妥当だということがわかるくらいの頭はあるだろう。
ITコンサルタントがコンサルタントではない理由は簡単だ。まず、自らの頭脳を使っているわけではない。頭を使っているのはシステムエンジニアであってITコンサルタントではないからだ。さらに、問題解決のアイディアそのものを提供しているわけでもない。提供しているのは自社が作った高額なシステムなのだ。
そもそもITコンサルタントの仕事は何か
そういわれてもピンとこない方がいらっしゃるだろう。
ITコンサルタントが何をしているかを知らないからだ。知らないのは無理もない。ITコンサルタントは自分たちの仕事がコンサルタントではないことを自覚しているから、ITコンサルタントではない人たちには自分の仕事を伝えないのだ。
ITコンサルティングファームと呼ばれる某A社や某B社、D社、E社、K社、P社などのITコンサルタントの仕事内容は次のようなものだ。
1. 営業先←→ITコンサルタント
ITコンサルタントには、営業先からどんなシステムがほしいのか聞く役割がある。「これが自動化できるといい」「今のシステムはここが使いづらい」などを聞くのだ。ヒアリングを通して営業先の企業がシステムに対してどのような不満を抱えているのかを把握する。
営業先の企業の不満を聞いたITコンサルタントは、不満のサマリを作ってシステムエンジニアに要望を出す。「こんなシステムが作れるとよいのだがどれくらいのコストがかかるだろうか」と尋ねるのだ。ITコンサルタントはシステムエンジニアではないから、システムを作る大変さはよくわかっていない。 エンジニアは時間を見積もってITコンサルタントに伝える。「この機能の難易度は高いが、ここだけ削れればいくらくらいで作れる」などという情報を得るのだ。
3. 営業先←→ITコンサルタント
エンジニアから聞いた見積もりを営業先に持っていく。エンジニアから聞いたことをもっともらしく話すことでシステムを受注するのが目的だ。何人のエンジニアを動かすからシステム開発にいくらかかる、このシステムでこれだけの作業が削減できるからコストカットになる、などと伝えてシステム受注を目指す。
4. システム受注後の流れ
システムを受注したらエンジニアを動員するほか、システムのうち簡単な部分は外注先のエンジニアなどに投げる。この調整をするのもITコンサルタントの仕事だ。
いかがだろうか。これがITコンサルタントの仕事内容だ。
この話を聞けば、ITコンサルタントが「顧客の解決のために自らの頭脳を使って問題解決のアイディアそのものを提供」していると考える人はいまい。
ITコンサルタントのいうコンサルタントが「クライアントの発展のための解決策を示してその発展を助ける業務を行う人」なのだろう。Wikipediaに書いてある、ウォーターサーバーの営業マンがコンサルタントになってしまうようなガバガバの定義をかざしてコンサルタントを名乗っているのだ。
ITコンサルタントのスキルは全て中途半端
ITコンサルタントとして身につくスキルとは、いったい何なのだろうか。これはこのブログで今後詳しく述べていくことでもあるので、今回は簡潔に述べようと思う。
よくITコンサルタントで身につく能力について語られる際に、真っ先に挙がるのが、「コミュニケーション能力」である。一般的なコンサルで身につくと言われているような、「問題解決能力」がITコンサルタントで身につくと声高に言われるのはあまり聞いたことが無い(もちろん、恥知らずにもそれを大声でいうようなコンサルティングファームも一部存在するようだ)。
それは当然である。なぜなら、先ほども述べたように、ITコンサルタントは問題解決のプロフェッショナルなどではなく、システム営業だからだ。
やることはクライアントの述べた課題から、真の課題を見つけることでなく、無理難題を述べるクライアントと社内のエンジニアの間で板挟みになり、双方の顔色をうかがいつつ妥協点を見つけていくことである。イシューからはじめるのではない。
イシューもシステムもすでにある状態で、営業からはじめるのだ。そしてシステムの保守点検で終わるのである。このような、「クライアントと社内のエンジニアの双方の顔色をうかがうこと」を、都合よくオブラートに包んで言い表した言葉が、まさしく「コミュニケーション能力」なのである。
コミュニケーション能力という言葉ほど便利な言葉はなく、またコミュニケーション能力という言葉ほど曖昧な言葉もない。よく勘違いされているが、ITコンサルタントになればプログラミングが身につく、というのも嘘である。
ほとんどのITコンサルタントは、エンジニアと話が通じる程度のプログラミング知識を持っているだけで、ゴリゴリとコードを書いていけるような人は少ない。多くのITコンサルタントは、ITとコンサルティングをかけ合わせた立場を選んでしまったがゆえに、結果としてITスキルもコンサルティングスキルも中途半端な「使えない人材」になってしまうのだ。
しかし、そんなこともわからないまま、ITコンサルタントはなんとなくITとコンサルティングのプロだと勘違いし、ITコンサルタントになってしまう学生のどれほど多いことか。
某ITコンサルティングファームでは、内定した学生に「うちは戦略コンサルティングファームじゃないけど大丈夫?」と念を押して聞くらしい。学生に対して非常に誠実な対応であるが、その真意を理解できている学生はほとんどいないだろう。
私の就活は、ITコンサルから始まった
私自身、最初は何を血迷ったのか、ITコンサルタントになろうとしていた。
就活時、私は東大理系院生で、周りの友人たちはこのまま研究職に就こう、教授のコネで就職をしようと考えていた。しかし、私自身は自らの研究をこのまま続けることに意味を見いだせなくなってきており、また就職するにしても起業というキャリアを将来の選択肢に残したかったため、1年目の夏から就職活動を行っていた。周りの意識の高い就活生と比べると動き出しが遅かったため、ろくに業界分析もせずにサマーインターンの選考を受ける始末である。
ITと付いているからWebでの起業に有利だと思い、大手外資系ITコンサルティングファームのサマーインターンを受けて、そしてなぜかそのまま内定してしまった。「外資系大手コンサルティングファーム早期内定者」というステータスを得た私は、周りの就活生からも羨ましがられ、満足してそのまま就活を終わろうとしていた。
しかし、そのあと実際にITコンサルタントの方々と会う機会や、就活のキャリアコンサルタントのような立場の方々と話す機会が与えられ、どうやらITコンサルタントというのは自分の考えていたものとは実態がかけ離れているということが次第にわかってきた。コンサルタントと付いているからゼネラリストとしてのスキルが身につくかと思いきやよくわからないもののスペシャリストにされてしまいそうだし、ITと付いているからプログラミングが学べるのかと思いきやろくにわからないまま仕事が進んでしまうようだ。
よく考えたら文系だってなれるんだし、高度なプログラミングスキルを身に着けられると思う方が間違いだった。ITコンサルタントについて調べていくうちに、このままでは生涯のキャリアを棒に振ってしまうと焦った私は、そこから他のコンサルティングファームの選考を受け始めた。グルディスや面接のレベルが、ITコンサルの選考を受けた時よりもはるかに難易度が高く、冬の選考はほとんどがインターンにすら行くことができず、内定は1つも出なかった。
もうだめかと思ったが、そこで諦めることなく、なんとか2年の春に日系のコンサルティングファーム(断じてシンクタンクなどではない)に経営コンサルタントとして内定することができた。適当な就活生だと思われるかもしれないが、多くの就活生は私以上に適当だ。そして、何もわからないまま耳障りの良い響きのする企業にとりあえず就職してしまう。
このブログを立ち上げたきっかけ
なぜこんなブログを書こうと思ったのか、不思議に思う方もいると思うので、最後にそのことについて述べて終わろうと思う。
私がこのブログを立ち上げたきっかけは、同世代の友人たちとの飲み会である。私はITコンサルの選考を受けていたこともあって、実際にITコンサルタントなった友人も多くいるのだが、その友人たちの多くが、飲み会のときに仕事の話になると一様に辛そうな顔をしているのである。「コンサルタントのはずがSEまがいのことをさせられている」、「コンサルっていうけど実質営業みたいなもんだよ」。飲み会のたびにそんなことを上司の愚痴とともにいう彼らを見て、こちらも胸が痛くなり、いたたまれなくなったのである。
もちろん、ITコンサルタントとして楽しそうに仕事をしている友人もいる。しかし、そんな友人は本当にごくわずかだし、彼らはITコンサルタントがどんな仕事かを理解したうえで就職していた。しかし、就活生でITコンサルタントが何かをよくわかったうえで就職しようとしている人は、いったいどれくらいいるだろう。
私は、ITコンサルタントが何かをよくわからないまま、新卒や第二新卒でITコンサルタントになってしまう就活生、若手の社会人がこれ以上増えてほしくないのだ。そして、今ITコンサルタントをしている方々にも、もう一度、このままでいいのかと逃げずに自問自答してほしいのだ。そんな気持ちから、このブログをはじめようと思った。
むやみやたらにITコンサルタントを非難しているのだとは決して思わないでほしい。私はただ、「コンサル」という文字がついているから、ITコンサルタントをコンサルだと思ってしまう哀れな人々をどうにかしたいだけなのである。もちろん、このブログに対しては賛否両論、様々な意見があるだろう。批判もあってしかるべきだ。
むしろそうやって議論が巻き起こり、このブログが少しでも就活生や若手社会人、現役のITコンサルタントの知るところになり、「このままITコンサルタントになってしまっていいのか」、「ITコンサルタントを続けていていいのか」と思うきっかけになれば、これほどうれしいことはない。
このブログが少しでも多くの方に届くことを願ってやまない。このブログの最終的な目標は、この世から「ITコンサルタント」という言葉がなくなることかもしれない。次回からは、なぜITコンサルタントがコンサルでないのかを、ITコンサルの実態を見ることとでより深く考察していこうかと考えている。長くなってしまったので、今回はこのあたりで筆をおこうと思う。